叩き上げの英語 179
だが私は「暴発」という名詞はまったく知らなかった。さてどうしようと私は焦った。ひざに置いた手の中に汗がにじみ出てくるのがわかる。
アイデアは、アクションからである。文章なら書き出すことだ。会話なら話し出すことだ。 私は何とかなると考え、口を開いた。
During the morning at Himonya Police Station, one of the policemen とまで言ったが、ここで天の助けか、一瞬ひらめいたのである。
「暴発」は名詞ばかり考えていたが、主語をポリスマンとした以上は動詞として考えればよいのではないかと。私はそこで結語した。fired his gun by mistake さらに私はつづけた。
hurting his fellow policeman around him. For this, he got his pay decreased for three months. 全体として私はすらすら言えたつもりだった。
おそらく応募者全員に対してこれと同じ日本文が出されたと思うが、どの程度の英訳レベルが要求されたのか。
もし完全な英作文が求められたのなら私はこの通訳にはまったく自信がなかった、特にこの「暴発」を by mistake と自然に口が動いてしまったが、おそらくハットリ中尉の耳には迷訳と聞こえたに違いない。
面接テストはこれだけだった。他の人たちは七、八分はかかっていたのに、私の場合はどうしたことか一分ぐらいで終わってしまった。 自信と不安が相半ばする。
すべてが終わったいま、また胸が痛み出す。この中のたった一人が受かると考えるより、九人が仲良く落ちると考えた方がいくらかでも救われる気持になる。