叩き上げの英語 111
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叩き上げの英語 111

 

数日後、そのサービスクラブにAPたちと飲みに行った時彼女に再会し、二人は自然に交際を始めるようになった。

がそれが私のまったく知らない恐怖の世界へ私をいざなうなどということになろうとは私には夢にも思えぬことだった。  

サービスクラブにつとめる彼女は仲間と交代で休みをとるため、休日がまちまちであった。だから私とのデートもままならなかったが、それでも月に二回ぐらいはお互いに無理をしてでも会える日をつくった。

田舎のこととて、会ってどこへ行くというあてがあるわけでもない。山肌に沿う田んぼのひろがりを見ながら、あるいは川の流れを追って、ただただ歩くだけだったが、自然の中に溶けこめる感じはすばらしかった。

若さのせいか疲れをまったく覚えぬままどこまでも歩きつづけた。米軍の飛行機がときおり舞い降りてきた。当時はまだまだプロペラ機の時代であったから今のジェット機のような耳をつんざく爆音こそしなかったが、それでも二人の会話は途切れる。  

見上げるとその機はかすかに翼を振っていたように見えた。パイロットにも数名私の友人がいたが、まさか私と知って空から挨拶を送ってくれたわけでもあるまい。あたりはようやく暮色に包まれてきた。

いつの間にか人里離れてしまったらしく、遠く家々の灯りがちらちらと見えかくれする。さすがに寒さが迫ってきた。  

急いで駅前にもどると、ところどころだが、その辺りだけは商店の灯りが照らし出している通りに出て、そのあたたかい感触にほっとした。  

デートといっても付近に映画館ひとつあるわけでもなく、お茶を飲もうにも喫茶店ひとつあるわけではないが、古間木の夜は、二人にとってそれだけが取柄であるかのように、静かに更けていくのであった。