叩き上げの英語 149
Any trouble with anybody? MPは入口を開けてだれに言うのでもなく、そう声をかけながら店内に入る。
たばこの煙が充満している。アメリ力たばこ特有の甘いにおいだ、換気扇など当時は考えもしなかった。カウンターの上にはビールびんが林立し、女の子がGIのひざの上に抱かれて器用な手つきでたばこをふかしている。
ほとんどがGIの客だ。GIの一人が言った。相当酔っているようだ。Yeh, I have I have a lot of troubles with those ファッケン girls. 様子から察して、彼のいうトラブルとは、問題をとくに起こしたのではなく、どの女の子も自分の言うことを聞かぬという、そんな程度の意味であろうことは容易にわかった。
MPはそんな酔っぱらいのたわごとには耳もかさなかったが、ただ彼の言った「ファッケン」に対しては、きっとなって Watch your language before ladies, PFC. と強い語調でたしなめた。
ピーエフシーとは階級の Private First Class のことで最下級より一つ上の一等兵である。制服の腕には ∧ をひとつつけている。女性の前ではそんな言葉はつつしめという注意である。
この「つつしめ」とか「気をつけろ」というように言葉に対する注意の動詞は watch を使う。 英語での悪口はわれわれ日本語のそれとはまったく異なり、多分に性的な語を文中に入れる。
日本人なら絶対口にできない、両親の性的なことまで、平然と言うのである。これを軍隊という特殊な集団社会での抑圧された性への反発と見る人もいる。