叩き上げの英語 125
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叩き上げの英語 125

 

くらべて、学び、追いつき、追いこせ  

新米の私は頭上に高くアンテナを張りめぐらし、あらゆる情報をつかもうと努力した。早くみなに追いつき一人前の仕事をしたかったのである。

とくにGIの会話は、たとえ自分に無関係のことでも、できるだけ聞くようにつとめた。RTOや三沢でつちかったいろいろな表現法が実に役立っていることに気づくとますます勉強にはげみがでるようになったのである。  

この事務所では午後三時になるとコーヒーがでる。職種はジャニターだがGIたちがパパさんと呼んでいる年輩のおじさんが正確にその時刻になると長持ちのようなものにコーヒーのカップをいくつか入れて運んでくる。

だがコーヒーをもらえるのはGIたちだけだった。日本人従業員にはでない。事務所が一緒ではなく、GIたちとは別々になっているので、さほど被差別感はつよく持たなくてすむのだが、しかしコーヒー特有の芳香はこちらの方にもただよってくる。

飲めないとやたらに飲みたくなるのが人情である。だが、だがである。日本人でもマネージャークラスの人は別と見えて、わが事務所の岩多氏にだけはコーヒーの恩典が与えられていたのである。ほかのわれわれには目もくれず、そのパパさんは彼のところへ直進する。

その歩く姿もにくらしく、においのただよう熱いコーヒーを彼の机の上にそっと置くのである。隣室からかすかに香ってくるのならまだしも、このように私たちの目前で彼一人だけ飲むコーヒーは、たとえどんな特権があったにしても、果たして彼にとってどんな味のするものか、六月に退職するまで残念ながら私はそれをうかがう機会は持たなかった。