叩きあげの英語 038
実は、私のこの合格の裏にはこんな話があったのである。数年後、まがりなりにも通訳となってその仕事を無事こなしている自分を見てもらいたい意味もあり、また当時の諸先生にも挨拶をしたかったので、なつかしの通信社を訪問したのだが、
そのとき、ある女子職員の人から「あなたは本当は合格点を少し下まわっていたが、日頃ひんぱんにここに足を運び、一生けん命に先生に質問をしていたが、そんな努力と熱心さにほだされて、おまけをしてくれた」ということを聞かされたのである。
私はおどろいたが、しかし事情はどうあれ、その「合格」が私に大きな自信をつけさせ、敢えて通訳という身の程知らずの仕事に飛び込ませる踏ん切りをつけてくれたことは間違いなかった。
落ちてもおちても通訳に挑戦
人間はある道に入れば、その道からこぼれないように一生懸命努力するものだ。物事を経験する前に、すでにそれに対して自信のある人なんかいるはずもない。とにかくその道に入ってしまうことだ。そうすれば自らがえらんでそれに入った以上、必ず努力する気持ちと意欲が湧いてくるはずだ。
その認定証をたのみに、私は勇躍、通訳として就職すべく、アメリカンクラブの門をくぐった。十二月の雪も降る寒い朝だった。
中はスチーム暖房がきいていた。長いカウンターがあり、日本人ばなれした男の人たちが五、六人で応募者に応対していた。係の人に言われるままに長いすに腰をかけ、自分の番を待った。どこでも空いたところに進んで面接を受ければよく、私はできるだけやさしそうな顔つきの人に当たるよう祈った。
面接はすべて英語である。筆記テストはなかった。通訳募集なのだから、話せればよかったのであろう。